ブリーフィング
米国M&Aアップデート #1
(本アップデートは2024年4月19日に配信したものになります。)
東京オフィスの米国M&Aパートナーが中心となり、日本企業の米国におけるM&Aにおいて注目すべきトピックスをお届けします。
M&A
米国企業の大半(また、Fortune500企業の65%以上)はデラウェア州で設立されています。これらの企業の事業はデラウェア州の裁判所の管轄下にあります。そのため、デラウェア州の裁判所は高い専門性と豊富な経験を有しており、また、信頼性が高い裁判所として、その意見は米国の他の州でも大きな影響力を有します。本年2月にデラウェア州で下された以下の2つの判決は、日本からの対米投資に影響する可能性があります。
- 株主間契約の条項の執行について(「Moelis」事件):日本の株主はしばしば、投資先企業のガバナンスに関する権利について交渉しようとします。 しかし、デラウェア州のCourt of Chancery(衡平法裁判所)は、株主としての拒否権と取締役の任命権のいずれも、取締役の権限と責任の範囲を侵害する傾向があるため、当該権利は契約事項として執行力を持たない可能性があることを指摘しています。上訴審で株主サイドに有利な判断がなされる、または新たな法律が制定されるまでの間は、米国で少数株主の保護を求める投資家が望み通りのガバナンスを実現するためには、別の形態の事業体(デラウェアLLCなど)の利用や優先株の活用を検討する必要があります。詳細はフレッシュフィールズのこちらの記事をご覧ください。
- 株主の受託者責任について(「Sears」事件):デラウェア州の裁判所は、従前から、支配株主に対して(取締役のように)受託者責任を負わせる旨の判断を示していました。今回の判決では、この受託者責任がいつ、どのように支配株主に対して適用されるのかが、より明確になりました。
- 現状を維持するための決定を下す際には、支配株主は受託者責任を負わない。
- 現状を変更するためのアクションをとる際には、支配株主は、(持分割合に基づかない独自の利益を自身が受け取らない場合は)会社に「故意または無謀に損害を与えない」という「限定的ではあるが強制力のある」責任のみを負う。
- 少数株主には与えられない独自の利益を支配株主にもたらすようなアクションをとる際には、(取締役のように)忠実義務、善管注意義務、開示義務といった広範な義務が支配株主に適用されることに変わりはない。
詳しくは、フレッシュフィールズのこちらの記事をご覧ください。
- 米司法省から新しいセーフハーバー方針が発表されました(正式な方針に係る文書は未発表)。この方針によれば、M&A前のデュー・ディリジェンスまたはクロージング後の統合の過程で、買収先企業に業務上の不正行為が発覚した場合、当該行為が自発的に司法省に報告され、かつクロージング後の所定の期限内に完全に是正される場合は、米司法省は買主(または買収先企業)に対する刑事責任を追及しないとされています。 取引のあらゆる段階(NDAの締結やデュー・ディリジェンスから、契約交渉やクロージング後の統合に至るまで)において、当該方針を考慮する必要性が今後ますます高まりそうです。 米司法省の発表原稿はこちらからご覧ください。
独占禁止法
M&Aに際して独占禁止法の観点からどのような戦略を取るべきかを検討し、米国当局との関係でどのようなハードルがあるかを想定しておくプロセスは不可欠です:
- 2023年の新合併ガイドラインでは、企業結合が違法であると推定するための市場集中度の閾値が引き下げられました。フレッシュフィールズは、この新ガイドラインに関する日本語でのウェビナーを2024年1月25日に開催しました。当該ウェビナーの録画をご覧になりたい方は、tokyoinfo@freshfields.comまでご連絡ください。フレッシュフィールズのウェブサイトでは、このテーマにフォーカスしたブログとポッドキャストもご覧いただけます。
- 競争上の懸念と認定される対象が広がっていることにも注意が必要です。最近、米国連邦取引委員会(FTC)は、2024年2月にKroger CompanyによるAlbertsons Companies買収計画を阻止するための訴訟を提起する際に、労働問題に焦点を当てました。また、問題解消措置としての分割をパッケージで行う場合、誰が分割される事業・資産の買主となるか、およびパッケージの対象範囲は、引き続き審査の重要な焦点です(これは最近FTCが提起した訴訟でも問題になっています)。米国司法省による、JetBlue AirwaysとSpirit Airlinesの合併禁止と、その際の独占禁止法を「強力に執行し続ける」との表明は、最近の注目ニュースです。新ガイドラインの下でのFTCの法執行戦略に関するさらなる考察と、合併取引を検討している企業が気にするべき注意点につき、フレッシュフィールズのブログをご覧ください。
- 閾値の年次調整:閾値は米国の国民総生産(GMP)に基づいて調整されます。新合併規制における届出の閾値についてはフレッシュフィールズのウェブサイトを、役員兼任に関する法執行に係る新しい閾値についてはフレッシュフィールズのブログをご参照ください。
- 4月9日から12日に、世界各国から独禁法、消費者保護、データ・プライバシーの専門家がワシントンD.C.に集まり、恒例のAmerican Bar Associationの第72回となるAntitrust Law Spring Meetingが開催されました。フレッシュフィールズの各国オフィスからは、「予測不可能な企業結合審査とM&Aの新たなフロンティア」を含め、様々なパネルディスカッションに参加しました。本イベントで最も重要なトピックとなったのは、米国における独占禁止法の執行強化だと言えるでしょう(過去1年間における米国当局の企業結合審査について、弊事務所のDCチームが分析したレポートをLaw360に掲載しました)。